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2004年に掲載された記事

ハスの葉構造で超撥水 環境負担少なく繊維などに微細突起
ハスの葉構造で超撥水 環境負担少なく繊維などに微細突起 二種類の樹脂で作った数マイクルメートル大の凹凸(写真、上)の上に数十ナノメートルの突起(粒状のもの)を作って超撥水性を実現

慶応義塾大学の白鳥世明・助教授らは、衣服などの繊維や薄膜の表面に微細な凹凸を設け水をはじく撥水(はっすい)加工技術を開発した。ハスの葉の表面構造をまね、二種類の大きさの凹凸を組み合わせて実現した。洋服や靴などに使えば、水をはじき汚れにくくなるという。繊維メーカーなどと協力して実用化する。

開発したのは、繊維や有機系薄膜の表面を水をはじくように加工する技術。繊維や薄膜の表面で二書類の樹脂材料を反応させて大きさが数マイクロ(マイクロは百万分の一)メートルの凹凸を形成する。次にセラミックス溶液につけてから乾かすと、数マイクロメートルの凹凸の表面に数十ナノ(ナノは十億分の一)メートルレベルの微細な突起ができる。

大きさが違う凹凸構造の組み合わせはハスの葉の表面と似た構造で、水をはじく。水を垂らすと球状になる。

レインコートや、フェルト系の生地で作った靴などを試作し、新技術で表面を加工した。水をかけると、水ははじかれ細かい水滴となり、ころころと転がる。完全にはじくので、長時間雨などにぬれると撥水効果が薄れて水が染み込んでくる可能性は低いという。

雨水などにぬれず、しかも汚れにくくする技術として撥水加工注目されている。フッ素樹脂などのように素材の性質を利用して撥水効果を持たせる従来技術と違い、新技術は表面構造だけで水をはじくので、環境負担も少ないという。

研究グループは白鳥助教授が社長を務めている研究開発ベンチャーのSNT(千葉県市川市)を通じて企業と共同研究を進める。
リンゴ食べごろひと目で
リンゴ食べごろひと目で リンゴの食べごろや傷み始めが色の変化で分かるーー。慶應義塾大学の白鳥世明・助教授らの研究チームがこんな判定シート=写真=を開発した。贈答用のリンゴにいっしょに箱詰めし、食べる時期の目安にしてもらう用途を想定している。

研究チームはリンゴが成熟するのに従い放出する植物ホルモンの一種、エチレンに着目。この濃度が高まると黄色から青緑色へとしだいに変化する新しい色素を開発し、シート状にした。青みがかかってくると傷む直前など、外見からは分かりにくい変化を切らずにチェックできる。

白鳥助教授が社長を務めるベンチャー企業のSNT(千葉県市川市)が製造。まずJAいわて花巻子会社のもプロ農夢花巻(岩手県花巻市)が試用、二千人のモニターに近く出荷する。サンプル価格は一枚五百円。

研究チームでは来年にメロンや洋ナシ向けの色素も開発する計画だ。

ナノ薄膜に微粒子加工 フィルターが有害物質分解
ナノ薄膜に微粒子加工 フィルターが有害物質分解 慶應義塾大学発ベンチャーでナノテクノロジー(超微細技術)を使った薄膜開発のSNT(千葉県市川市、白鳥世明社長)は、厚さがナノ(ナノは十億分の一)メートル単位の薄膜に有害物質を吸着・分解するなどの機能を持った微粒子を効果的にコーティングする技術を開発した。空気清浄器のフィルターなどに用いることで機能が高まるとしており、メーカー各社に技術を提供していく。

まず家電や化粧品、生活用品などのメーカーと組む方針で、共同で商品開発する。例えば酸化チタンの微粒子を付着させれば、ホルムアルデヒドなどの有害物質を分解する光触媒の機能を持つ薄膜ができる。空気清浄器や部屋の壁紙に活用すれば、高付加価値の商品作りに役立つ。

機能性を持ったナノ微粒子のコーティングには、白鳥社長が独自開発した交互積層装置を使う。微粒子を混ぜた溶液の中をシート状の薄膜がくぐり抜ける過程で、ナノファイバー(繊維)の一本一本に微粒子が付着する。

完成した薄膜(三百ナノメートル以下)は繊維が網目状になっており、付着した微粒子が機能するための通気性を保っている。従来も微粒子を付着させる試みはあったが、網目がつまってしまい機能を確保するのが難しかった。SNTの装置は水ですすぐ工程を入れて余分な粒子をその都度洗い流し、通気性を保つことに成功した。

薄膜の材料となるナノ繊維の製造には、ポリマーを溶かして入れた特殊な容器に電圧をかけ直系十ナノ−百ナノメートルの繊維をつくって巻き取る「電解つむぎ」と呼ばれる方式を採用。常温・常圧で製造できるため、真空装置内で作る従来の方式よりもコストを大幅に抑えられるという。

メーカー各社と共同で商品開発を目指す。バイオ研究向けの特殊な膜などにも応用できるとみており、医療・医薬品業界などにも売り込む考え。SNTは二〇〇二年に白鳥ナノテクノロジーとして設立。野菜などの腐敗の過程で発生するガスを吸着する「鮮度保持シート」などを開発した実績を持つ。研究拠点は慶大の新川崎タウンキャンパス(川崎市)。
ナノ薄膜実用化で起業
ナノ薄膜実用化で起業 肉眼では見えない三百ナノ(ナノは十億分の一)メートル以下の薄い膜。慶応義塾大学の白鳥世明教授はこの薄膜に、におい検知などの機能を持たせてセンサーなどに活用する技術を開発している。大学発ベンチャーのSNT(旧・白鳥ナノテクノロジー、千葉県市川市)の社長も務め、研究成果の実用化にも力を入れる。

開発したナノ薄膜は、水素や酸素などの有機素材で作られている。金属酸化物を使ったものより「粒子が付着したときの感度や種類の判別精度が高まる」とみている。従来の薄膜製造は真空状態が必要で、コスト高になりがち。白鳥氏は常温・常圧の水溶液に薄膜の基板を繰り返し浸すことで膜を低コストで作る「交互積層法」も編み出した。

「技術は広く使ってもらわないと独りよがりになってしまう」が信条。学生時代に企業への就職を考えたこともあったが、結局研究の道に。その後、教員の起業を大学が奨励するムードが拡大。長年の思いを実現しようと、一昨年三月にたった一人で白鳥ナノテクノロジーを起業した。

同社の研究拠点は慶大の新川崎タウンキャンパス(川崎市)にある。ヒット商品の一つは鮮度保持シート。冷蔵庫の中に置くと野菜や果物が腐敗する過程で発生するガスを抑制する効果を持ち、二百万部売った。今秋、このリニューアル版を発売する方針だ。

「個人的な企業に終わらせたくない」と昨年末に社名変更し、「白鳥」の字を外した。「今後は積極的に人材を受け入れ、製品化のスピードを速めたい」という。
有機薄膜の大量生産装置を開発 常温常圧で稼動、膜厚をナノ制御 干渉フィルターや吸着材向け
有機薄膜の大量生産装置を開発 常温常圧で稼動、膜厚をナノ制御 干渉フィルターや吸着材向け 慶応大学発ベンチャー企業のSNT(千葉県市川市、白鳥世明社長)は、有機薄膜を大量生産できるロール方式の装置を開発した。常温常圧の条件で稼動し、膜厚をナノメートルオーダーで制御できるのが特徴。ロールから出る幅1mの基板シートに毎分3mの速度で薄膜を形成する能力がある。生産した薄膜は当面反射防止膜などの干渉フィルターや、環境改善用のにおい吸着材などへの利用が期待されている。

SNTは慶大学理工学部助教授を務める白鳥氏の研究成果を商品化するための会社。溶液中で基板上に正負の電解質ポリマーを交互に吸着させ、自己組織化させる「交互積層法」を用いる。白鳥助教授が研究開発した製法で、親水処理した基板を負に帯電させ、それを正に帯電した電解質ポリマーの水溶液に漬けて基板にポリマーを吸着させる。次にそれを負の電解質ポリマーの水溶液に漬けて吸着。このプロセスを繰り返すことで積層していく。

有機薄膜の大量生産装置を開発 常温常圧で稼動、膜厚をナノ制御 干渉フィルターや吸着材向け 膜厚の制御はパソコンで簡単に設定できる。製膜プロセス中の質量増加を水晶振動子でモニターして、振動子に薄膜分子が付着すると振動周波数が低下するという現象を利用している。振動子は基板付近に置き、基板とともに動かす。振動周波数は数MHzに設定し、周波数の低下から基板に付加した高分子の質量を判断する。

紙オムツの材料として知られているポリアクリル酸(PAA)とポリアリルアミン(PAH)を積層した例では、水晶振動子の周波数が3000Hz低下するところまで処理すると厚さ188nmのPAHとPAAの薄膜が生成した。次にPHAとポリスチレンスルホン酸(SPS)の膜を積層。さらに周波数4000Hzの低下で再び厚さ250nmのPAHとPAAの膜を重ねた。

シートの製造速度は形成する膜厚の精度に依存し、最大で毎分30mも可能。真空中の高温高圧の条件で薄膜を製造する製造装置に比べて、製造装置は約1000万円程度と低価格で製造コストも安くなるという。
起業する大学 慶応義塾大 直接出資でVBで育成
起業する大学 慶応義塾大 直接出資でVBで育成 「有望な大学発ベンチャーには最大百万円を出資します」――。慶応義塾大学は昨年十一月末、学内の研究成果を活用したベンチャーの育成を目指しアントレプレナー支援資金制度を創設した。金額は少ないが、大学が直接出資して株主になる先駆け的試みだ。

最初の出資先に選ばれたのは、バイオベンチャーのヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(山形県鶴岡市、大滝義博社長)。細胞内でできるアミノ酸などの代謝物を高速で測定・解析できる技術が売り物だ。創業メンバーの曽我朋義助教授は「出資というお墨つきは信用力の向上にもつながった」と語る。

効果は早速表れた。一月から食酢大手のミツカングループ本社と食品の発酵過程の分析研究に着手。代謝のメカニズムを知ることで新商品開発などが容易になるため、医薬品などのメーカーからも引き合いが出ている。曽我助教授は「一〜二年後には株式公開を目指したい」という。

慶大は医学部を抱える総合大学で、バイオや医療など将来有望とされる分野の技術シーズ(種)を豊富に持つ。同大学の技術移転機関(TLO)の知的資産センターが国内外で出願した特許の累計は昨年末までで五百四十三件。うち四割強をバイオ・医療が占める。

大学発ベンチャーの輩出は進んでおり、筑波大学などの調査によると慶大発ベンチャー企業は昨年八月末時点で早稲田大学に次ぐ三十四社。だが産学連携担当の黒田昌裕常任理事は「技術力を考慮すれば、ベンチャーはまだ少ない」と気を緩めない。

理由の一つは、四月に抗える国立大学の法人化だ。運営の自由度が増すことで、私大も含めた大学間競争の激化は必至。勝ち残るには慶大といえどもベンチャー輩出で技術力をアピールし、企業からの研究資金などを集める努力が重要になる。

このため、慶大は昨年からベンチャー育成策を矢継ぎ早に打ち出している。九月にはジャフコなどのベンチャーキャピタルや伊藤忠商事など十数社を集め「慶応ベンチャーフォーラム」を結成。学内の技術を目利きしてもらい、有望条件については事業計画を提案してもらう。

直接出資だけでなく、学内特許の実施権をベンチャーに提供する代わりに株式や新株予約権を受け取るエクイティ制度も用意。昨年十二月に学内の教員が設立した住環境コンサルティングのエコスコーポレーション(神奈川県藤沢市、四十万靖社長)などに適用予定だ。

施設面の整備も急ぐ。来年四月には神奈川県藤沢市の湘南藤沢キャンパス(SFC)に育成施設が完成する。SFCでは卒業後に情報技術(IT)関連のベンチャーを起こす学生が多く、起業支援に熱心な環境情報学部の国領二郎教授は「ベンチャー創出に弾みがつく」と期待する。

国立大の法人化に伴う競争激化は、私大に一段の経営努力を突きつける。慶大の取り組みは私大の生き残りを占う一つの試金石になりそうだ。


主な慶大発ベンチャー企業
▽ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ
 ・細胞内の全代謝物の測定・解析

▽サイバーレーザー
 ・高精度産業用レーザーの開発・販売

▽白鳥ナノテクノロジー
 ・薄膜の作製、評価に関するナノテクノロジーの受託研究

▽GBS研究所
 ・中枢神経再生に対する免疫療法の開発

▽エコスコーポレーション
 ・暮らしやすい住環境作りのコンサルティング

▽ケイビーエムジェイ
 ・インターネット向けファジー検索ソフトの開発

▽プロップジーン
 ・染色体検査のための試薬・機器の開発
排せつ物のにおい 感度30倍で把握 慶大発VBでセンサー
排せつ物のにおい 感度30倍で把握 慶大発VBでセンサー 慶応大学発ベンチャー(千葉県市川市、白鳥世明社長、044・580・1566)は遠隔地の介護者に寝たきり老人が失禁したことを知らせるシステムを開発した。従来より三十倍感度を上げたセンサ=写真=がにおいを感知し、データ化してインターネットで伝える。介護者が一時間ごとに状態を確認する負担を軽減する。

システムは無線LAN(構内情報通信綱)ユニットを付けたセンサー、管理用のパソコンで構成する。ベッドにセンサーを設置し、尿や便のにおいの成分であるアンモニアやメチルメルカプタンを感知する。

センサーの感度を高めるため、多孔質構造の薄膜を積層させた水晶振動子を二個内蔵した。水晶振動子にアンモニア分子が付くと周波数が低下する。一ナノ(ナノは十億分の一)グラムの分子の付着で一ヘルツ周波数が落ちる関係を利用し、周波数の減少度合いを基に分子量をつかみ、濃度に換算する。

アンモニア用センサーは水晶振動子の表面にリン酸ジルコニウムとポリマー水溶液に交互に浸して多層薄膜を形成した。

メチルカプタン用センサーにも吸収効率を高めた薄膜を形成した。膜と膜の間にナノメートル級のすき間を作り、ガスの出入りが良くなり感度が高まった。

通常は半導体を使ったセンサーで、分子の付着で生じる抵抗の変化をとらえていた。

今月からサンプル出荷を始める。センサー一台五十万円程度。病院や老人ホームなどを対象に売り込む。送受信ユニットも用意し、においを感知すると空気清浄機などの稼動も可能だ。

初年度で千台の販売を目指す。今後は改良して汚水処理場などの管理用として需要も開拓する。

白鳥ナノテクノロジーはセンサー、薄膜などが専門の白鳥世明・慶応大学理工学部助教授が二〇〇二年三月に設立した。